この夏、オーストラリアのホームステイに15名の生徒が参加した。日本と大きく異なる風習と生活。異文化に自らをさらして省みる体験は人生に厚みを加え、“人間の幹”を太くする。世界を見る目、日本を見る目に新しい視点が備えられる。
北部九州の4県で行われたインターハイには、自転車競技・卓球・空手・ソフトボール・水泳が千葉県代表として出場した。とりわけ自転車競技部は全国優勝の栄に浴し、ソフトボール部は5位入賞に輝いた。
私は博多に4日滞在して、ソフトボール部の応援に出向いた。せっかくの機会であったので、蒙古軍の襲来に備えて20キロにわたって築かれた防塁の跡を見たり、志賀島で掘り出された「漢倭奴国王」の金印の現物を博物館で見たりもした。
地下鉄の駅でエスカレータに乗ろうとすると、次のような貼り紙があって私は自らを省みることになった。東京など首都圏のエスカレータでは左側に立ち、右側は急ぐ人のために空ける。大阪などではその逆に右側に立ち、左側は空ける。そういうルールの違いが狭い日本に存在している。
デパートやホテルのエスカレータではそれほどでもないのだが、地下鉄やJRでは改札口やホームへと急ぐ人びとが走るようにして上り下りして、エスカレータは騒々しい。そのことに一つも違和感を覚えないで過ごしている私に、貼り紙はやんわりと注意を促す。――エスカレータは乗るものです。歩くものではありません。
街には「階段」があちこちにあって、私たちは上ったり下りたりして行く。しかし、エスカレータは「階段」ではなく、エレベータと変わらぬ「乗り物」であるから、歩くことはやめて静かに乗りましょう。――こういう貼り紙である。
空港などには「動く歩道」(moving walkway)がある。それは「動く《歩道》」であるので、歩いて進んでもいいのだろう。しかし、そもそもは重い荷物を持つ人や高齢者などの移動に配慮した「運賃無用の乗り物」であったのかもしれない。
東京には東京の、大阪には大阪の文化があって、福岡には福岡の文化がある。「郷に入れば郷に従え」で、その地で守られているルールは尊重する。そういうこととして済ましていいことなのか?――私の「ささやかな異文化体験」である。
ところで、オーストラリアのエスカレータは、どのように利用されているのだろう。
第18回 ささやかな異文化の体験